『復讐者に憐れみを』
聴覚障害者のリュは、腎臓病のの姉を救うため自分の腎臓を移植するつもりだったが血液型が合わなかった。さらに悪いことに勤務先の工場を人員削減の為突然解雇され、わずかに渡された退職金も、臓器の密売人に自分の腎臓を盗られた上に騙し取られてしまう。そんなリュに、恋人のヨンミは、工場の経営者ドンジンの娘を誘拐しようと持ちかける。金と引き換えに、娘は無事に帰すつもりだった。ところが、思いがけない事故でその娘が溺死し、ドンジンは犯人への復讐を誓う。一方リュも、密売人への復讐を考えていた…。
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あの『JSA』の監督であり、復讐三部作といわれている『オールドボーイ』『親切なクムジャさん』を手がけたパク・チャヌク監督の作品です。
三部作とも全部見ましたが、怖いのと痛いのは苦手な私にはかなりきつい作品でした。
『オールドボーイ』も『親切なクムジャさん』も私にはどうも映画の凄さよりは少々嫌悪感の方が強かったのですがこの作品は怖さや痛さより人間が社会で生きていくということの難しさ、不条理さ、理不尽さ、困難さを考えさせられる作品でした。
リュは病身の姉を看病しながら賢明に働き貧しくとも自分の稼ぎで移植をしてあげたいと願っている青年。しかし世間の風は冷たく人員削減という形で職を奪われわずかな退職金を渡される。自分の腎臓が血液型の違いで移植できないのならどんな手段でも手に入れようと闇ルートの臓器提供組織に足を踏み入れるが悪いことに自分の腎臓を盗られた上になけなしの退職金まで持ち去られてしまう。そんなときに病院から提供者が現れたと連絡が入るがもう払うお金も無い。すると恋人のヨンミが金持ちの子供の誘拐をけしかける。
このくだりが面白い。「誘拐してもお金を貰ったらすぐに返せばお金持ちにとっては身代金に払ったお金など微々たるものなのでお金を取られたことよりも子供が帰ってきたということでますます子供を愛すようになり家族関係もうまくいく。」と。誘拐した子供を殺してしまうのが悪い誘拐で自分たちは良い誘拐をするのだからたいして悪いことじゃないと説くヨンミ。
しかしこれがリュにとっては転落の一途を辿る結果となる。
預かったと思っていた子供が実は誘拐した子供だと知り姉は自殺、そして以前から姉が言っていた遺言通り亡骸を川辺に埋葬している隙に誘拐した子供は足を滑らし川に転落、耳の聞こえないリュには助けを求める声が聞こえるはずもなく殺すつもりなど毛頭なかった娘を溺死させてしまう。
一方トンジンは仕事人間で家族も顧みず働き今の地位を手にしたがその結果として妻からは離婚を要求され娘だけを生きがいに働いてきた。しかしそのトンジンも多くの労働者を解雇して生き残ってきた為に職を失った者からの恨みを受ける人間である。 しかし娘を誘拐され挙句の果てに殺されたと思ったトンジンは会社も辞め復讐に走る。そのためには警察の人間すら買収する。
つまり復讐する者される者がある視点においては全く逆の立場の人間であるということなんですね。人は些細なことがきっかけですべてが悪い方向に転がる、転がりだすと歯止めが利かなくなり深い深い底なしの沼へと落ちていってしまう・・・
そしてそれぞれの復讐劇。因果応報的な結末・・・
かなり残酷なシーンが多いのでもう一度みたいとは思わないけどソン・ガンホ、シン・ハギュン、ぺ・ドゥナの存在感はありありと出てました。ぺ・ドゥナにおいてはかなり大胆なシーンがあったりあの不思議な感覚の少女がとても彼女に似合っていて頑張ってるな〜って感じです。
シン・ハギュンは聴覚障害という設定なので復讐シーンにおいても全く喋らないし、ソンガンホの黙々と復讐を果たしていくので全体において静かな映画です。それだけに生々しい感じがしなくもありませんが・・・
韓国映画はコメディーの中にも残酷なシーンがあったり、血なまぐさいストーリーの中でも笑いをとったりと中途半端な構成をよく見かけますがこれは終始一貫重い雰囲気で統一されていて無駄に笑いを取っていないところは良かったです。
リュが姉を葬る川原の場面で脳性まひの青年が出てくるのですがリュ・スンボムだとわかっていても彼の姿を見ることができないくらいリアルな演技です。そしてソン・ガンホの別れた妻(イ・カニ)の今の夫役でほんの一場面ですがチョン・ジェヨンが出演していました。ラストでトンジンを殺しに来るヘビースモーカーのおじさん軍団の中に『ミスターソクラテス』で刑務所暮らしのドンヒョク父も出ていました。
韓国では二週間で興行終了してしまった作品と聞きますがほかの二作より私は受け入れられたような気がします。
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コメント
復習者に点数を。
あ、ごめんなさいごめんなさい。
投稿: ふる | 2007/01/22 14:10
いえいえ・・・・
なんとコメントしてよいのやら・・・
投稿: キャサリン | 2007/01/22 20:52
私も3部作の中では1番好きな作品です。韓国では興行的にあまり振るわなかった様ですが、日本人とはやはり違うのですかね?ノワールといいながらヘンに笑わそうとしたり・・・・というのがチョッと苦手(こんなところで笑いたくない)。その点この作品は辛いけれど終始一貫しています。短いけれどスゴイと思うシーン(リュウがラーメン作ってて、姉が激痛の為声を上げながら七転八倒。でもリュウは聞こえないからラーメンの方向いてて、隣の部屋では声を勘違いしたのか学生達が・・・・の短いシーン等)さすがパク・チャヌクと映画館で鳥肌ものでした。監督自ら観客がどちらを応援したらいいかジレンマを感じるような作品にしたかった。と言っているようにその通りになりました。
投稿: ようちゃん | 2007/02/22 23:03
ようちゃんさん、こんばんわ~☆
コメントありがとうございます!
そうですね~、あのリュとお姉さんの対照的なシーンは悲しいけれど辛い現実を物語っているようで凄みすら感じるシーンでしたね。
復讐するものされるもの、どちらにも存在する正義と悪・・・そんなことを考えさせられるような映画でした。
どうぞ、またお立ち寄りくださいね。
投稿: キャサリン | 2007/02/24 01:38
キャサリンさん、アンニョン♪
プチご無沙汰です。face私もいましたよ♪
トンの時はすごかったですね(笑)
で本題です!私もこの映画が一番3部作の中ではいいと思いました。わかりやすいし、強烈な批判も入っていて!それに役者がいいですよねーー。やっぱり演技力だわと思った作品の一つです。けして好きなものではないけどねーー。けどすごい作品だとは思いました。
投稿: so-so♪。 | 2007/09/03 00:46
so-so♪さん、おひさしぶりです~☆
そーですか!あの会場にいらしたんですね。
ホント、トンバンのファンばっかりでビックリしました(笑)
監督の復讐三部作、どれもいい映画だと思うのですが痛いの怖いのが苦手なので一回見ればいいかな・・・って感じなのですが、やはりこの映画が一番復讐の意味が分かり易かったし、物事は多面的に見ると全然違う感情を持つことのできるということを証明してくれるすごい映画だと思いました。
でも、やっぱ苦手だな~(笑)
投稿: キャサリン | 2007/09/03 12:17